縁の下の力持ち、アシスト特集-ディスクブレーキモデルで戦う2019シーズン開幕

2019/03/08

縁の下の力持ち、アシスト特集-ディスクブレーキモデルで戦う2019シーズン開幕

自転車レースはチームスポーツ。しかし勝利するのはたった1人の選手だけ。今回はチームメイトを勝利に導くアシスト選手にスポットライトを当てます。

2018年シーズン73勝とチーム最多の勝利数を上げ、今年も勝利量産を目指すドゥクーニンク・クイックステップ。
2019年シーズンもその勢いは止まらない。ただし、勝利した選手の顔ぶれは少し異なる。昨年アシストとしてチームを支えてきた選手達が、今年は表彰台に登っているのだ。

++++++++++

■チームの勝利を支える仕事人達
ドゥクーニンク・クイックステップは少し変わったチームだ。
絶対的なエースを決めず、状況に応じてエースを変えながら戦う。「チームの誰かが勝てばいい」という考え方を集団で狩りをする狼に例え「ウルフパック(狼の群れ)」と呼び、このスローガンをジャージのデザインにも取り入れている。


ジャージの背面上部に狼のシルエットとともにチームスローガン「THE WOLFPACK(狼の群れ)」
がデザインされている。
© Sigfrid Eggers

全員がエースで全員がアシスト、そんなチームでも全ての選手が勝利を上げているわけではない。チームメイトの華やかな勝利を演出しながら、目立ったリザルトを残せない選手も当然存在する。今回紹介する3人の選手もそうだ。彼らは一度も勝利しないまま、2018年シーズンを終えた。

■ゼネク・スティバル(チェコ)ー運に見放された元シクロクロス世界王者
クラシックを主戦場とするドゥクーニンク・クイックステップにおける主力選手の一人、スティバル。シクロクロスの世界チャンピオンに3度輝いたクラシック巧者は、2年間も勝利から遠ざかっていた。あらゆるレースで貪欲に自らの勝利を追い求め続けるが、勝てない。積極的に攻撃を仕掛けるスティバルの動きは絶好のアシストとなり、結果的にチームの2018年クラシックシーズンの勝利量産を演出した。


さすがシクロクロス出身、石畳や激坂といったタフな道に滅法強いスティバル。


オフシーズンのトレーニングで2018-2019シーズンのシクロクロスにスポット参戦。
年始の名物レース、GPスヴェンネイスで特大ジャンプを披露し、会場を沸かせた。
photo:CorVos

S-Works CruXをチェックする>

「クラシックレースを自由に走れるのはありがたい。でも、良い逃げグループに乗り遅れたり、僕の攻撃の後のカウンターアタックが決定的な動きになったり、そんなことばかりが起こる。ここぞという時は、いつも運がないんだ。」―そうインタビューで語っていたスティバルに、「幸運」が舞い込んだ。

1つ目の幸運は、ヴォルタ・アン・アルガルヴェ第5ステージ。集団で息を潜めていたスティバルは最後の1級山岳で他の選手のアタックに反応し、先頭集団へ。そして力強いアタックでステージ勝利をもぎ取った。


アタックを仕掛けるスティバル。一瞬で加速し、後続の選手を置き去りにする。© 2019 Getty Images


2年ぶりの勝利に歓喜するスティバル。© 2019 Getty Images

2つ目の幸運はその後すぐに訪れた。オンループ・ヘットニュースブラッド、石畳のフランドルクラシック開幕戦にしてスティバルが勝利を熱望し続けたレース。実に14年の間、チームが勝利から遠ざかっているレースでもある。クラシックらしい駆け引きや落車が頻発する展開の中、スティバルは精鋭選手で形成される先頭集団に入り込み、他の選手達の攻撃に対応しながら、勝機を待った。そして最終局面で訪れた一瞬のチャンスを逃さずにアタックを仕掛け、独走勝利に持ち込んだ。


オンループ・ヘッドニュースブラッドで嬉しい今季2勝目を上げたスティバル


表彰式ではトロフィーを片手にお茶目なポーズ。「何だって?僕が勝ったって?本当に?まだ信じられないよ!」

経験に裏打ちされた勝負勘と、他の選手を置き去りにする力強いアタックがスティバルの持ち味。スティバルが言う「幸運」とは、例えば先頭集団を構成するメンバーや、他の選手のアタックのタイミングなど、レースを有利に運ぶことができる可能性やチャンスのことだろう。運だけでは勝てないが、運がなければ勝てない。そして幸運を味方につけたスティバルが勝てない理由なんて、どこにもないのだ。

■ティム・デクレルク(ベルギー)ー集団牽引のプロフェッショナル
190p、78s。大柄なデクレルクの仕事は逃げグループと集団のタイム差をコントロールしながら集団を牽引すること。向かい風や横風に負けず長時間先頭を牽き続け、フィニッシュ手前で逃げを捕まえ、その日のエースを安全に先頭へ送り届けたら仕事は終了。あとはチームメイトに勝利を託す役回りだ。


パワフルに集団を牽引するデクレルク。大きな体と広い肩幅が特徴だ。© 2019 Getty Images

だけど、この日は違った。ヴォルタ・アン・アルガルヴェ第5ステージ、デクレルクは自分のために走ることを許されたのだ。彼はレース序盤から逃げに乗り、持ち前の独走力でフィニッシュ手前15qまで逃げ続けた。


逃げグループで走るデクレルク。この逃げで獲得した山岳ポイントが後の嬉しいサプライズに繋がる。
© 2019 Getty Images

この日の結果はスティバルの勝利。デクレルクはフィニッシュ後、ステージを獲ったスティバルへ祝福の言葉をかけていた。お互いの健闘を称え、勝利の喜びを分かち合った後、チームバスに帰ろうとしていたデクレルクはレース主催者から声をかけられる。表彰式へ来るようにと言われ、その時初めて彼は自分が山岳賞を獲得したことを知った。


山岳賞ジャージを表彰台で着用するデクレルク。心なしか緊張している?© 2019 Getty Images

「自分が特別賞のジャージを着るなんて、考えたこともなかった。初めての表彰台だったから、ジャージの前後を間違えて着ようとしちゃったんだ。きっとみんなテレビの前で笑ってくれたよね!きっとこれがキャリアで唯一のジャージになるだろうから、額に入れて自宅のいい場所に飾るんだ。」と嬉しそうにデクレルクは語った。

ヴォルタ・アン・アルガルヴェ第5ステージの主役となったスティバルとデクレルク。スティバルはステージ勝利、デクレルクは山岳賞を獲得。ベテラン選手2人の笑顔が弾ける。

■フロリアン・セネシャル(フランス)ー初勝利を熱望するクラシックスペシャリスト
セネシャルは、スティバルと同じくクラシックレースにおける主力選手の一人だ。2018年のクラシックレースではライバルチームへの攻撃や抑えなどのアシストとして活躍し、大いにチームの快進撃に貢献した。
しかし、セネシャル自身は、まだ一度も勝利を掴んだことがなかった。昨年のドワルズドール・ウェストフランデレンではチームメイトのレミ・カヴァニャ(フランス)をアシストして2位。年下のチームメイトのプロ初勝利を演出しつつも、自らの勝利を狙いたい気持ちもどこかにあっただろう。

そんな彼に勝機が巡ってきたのがル・サミン。春のクラシック3戦目、リトル・パリ〜ルーベと呼ばれる石畳のレースは雨によりトラブルが頻発する厳しい展開となった。優勝候補のエースを抱えるチームが次々と攻撃を仕掛けるが、ドゥクーニンク・クイックステップの数的優位は揺るがない。先頭集団が人数を減らす中、一瞬の隙を逃さず先行したデクレルクを追走する小集団の中でセネシャルは静かにその時を待っていた。ライバルチームの牽引によりデクレルクが捕えられ、勝負はスプリントに持ち込まれる。「デクレルクが逃げてくれたので、スプリントに向けての準備ができた」と言うセネシャルの加速は抜群で、右手を振り上げながら勢いよくフィニッシュラインに飛び込んだ。


マッチスプリントを制して勝利したセネシャル。最後は後続との距離を確認する余裕もあった程。© 2019 Getty Images

「今日は妻の誕生日なんだ。プロ初勝利を彼女の誕生日にプレゼントすることができて嬉しい。忘れられない日になったよ!」と喜びを爆発させるセネシャルは25歳。新人以上、ベテラン未満。未勝利のままでいることに焦る気持ちもあっただろう。表彰台の一番高い場所へ登ったセネシャルの顔は晴れやかだった。


石畳クラシックらしく、表彰台が石畳。3位に入ったニキ・テルプストラ(オランダ/ディレクトエネルジー)は、
昨年までのチームメイトにして2018年ロンド・ファン・フラーンデレン覇者。© 2019 Getty Images


表彰台で乾杯。まさに勝利の美酒。© 2019 Getty Images
 

■クラシックシーズン開幕
今回紹介した3人が普段どれだけチームに貢献しているかを、皆が知っている。ドゥクーニンク・クイックステップの選手達はこぞってスティバル、デクレルク、セネシャルの勝利を喜んだ。祝福の言葉がSNSに並び、彼らがチームの中でどれだけ愛されリスペクトされているのかが伝わってきた。勝った選手はトレーニングメイト達にコーヒーとケーキをご馳走するという習慣があるらしいが、微笑ましい祝宴の場は次のレースの話で持ち切りになるだろう。何故ならば3月から4月は大きなクラシックレースが集中開催される重要な時期だからだ。

クラシックレースは、格式が高く歴史あるワンデーレースの総称である。オンループ・ヘットニュースブラッドを皮切りに本格的なフランドルクラシック、通称「北のクラシック」シーズンがスタート。石畳や急坂が盛り込まれたタフなレースが多いのが特徴だ。
クラシックレースは一日で終わる。ステージレースと異なり、総合狙いで区間勝利のために走らないチームや選手が存在しないため、優勝を狙う選手の数が多く、必然的に激しい争いになる傾向がある。グランツールにはない展開の妙があるので、普段あまりレース観戦をしない方にも是非観ていただきたい

なお、オンループ・ヘッドニュースブラッドの翌日3月3日に開催されたクールネ〜ブリュッセル〜クールネでは、昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを彷彿とさせる独走でボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)が勝利している。
オンループ・ヘッドニュースブラッドからル・サミンまで、ドゥクーニンク・クイックステップはクラシック開幕3戦全勝、今季勝利数を早くも14まで伸ばしている。(3月8日現在)


クールネ〜ブリュッセル〜クールネで独走勝利を果たしたユンゲルス。
TTスペシャリストらしい見事な逃げ切り勝利を飾った。© 2019 Getty Images

レース終盤、独走するユンゲルスを捕えようとスプリンターを擁するチームがペースアップを試みるも、先頭に集まったドゥクーニンク・クイックステップの選手達に妨害されてスピードを上げることができない。他のチームとうまく連携できず、奇しくもユンゲルスと同郷で個人タイムトライアルナショナルチャンピオンになったこともあるジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク/ボーラ・ハンスグローエ)がチームメイトのパスカル・アッカーマン(ドイツ)のために長時間先頭を牽き続けた。


クールネ〜ブリュッセル〜クールネで先頭を牽き続けたドリュケール。
ドゥクーニンク・クイックステップの選手達に包囲されながらも懸命に前を追い続けた。


ペテル・サガン(スロバキア)の右腕として活躍するダニエル・オス(イタリア)も本格的にクラシックシーズンイン。

自らの勝利を捨てチームに貢献するアシストのひたむきな走りが、エースの勝利を引き寄せる。アシスト選手の献身を背負い、エースは勝利のために走る。だが、どんなに強い選手がどんなに良いアシストを受けて良い走りをしても、最後は運がなければ勝てないのが自転車ロードレース。マシントラブル、落車、突然の失速…どれだけ準備をしても完全に取り除くことができない不確定要素がそこにはある。だからこそ、全てが噛み合った時に手にする勝利は格別だ。 そして、チームを下支えするアシスト選手にも是非注目してほしい。彼らの多くは、大きな勝利を手にせずにキャリアを終える。勝負に直接絡んでいないようにも見えてしまうアシスト選手達の動きがレースの展開を決定づけることも少なくない。そして、そんなアシスト選手が勝利するレースもまた、格別だ。

■2019クラシックシーズン観戦ガイド
この記事をご覧になって「クラシックレースを観てみようかな」と思ってくださった方向け、独断と偏見に基づくおすすめレースを紹介する。
※全てJスポーツまたはDAZNでライブ配信予定。


(1)ストラーデ・ビアンケ
【開催日】3月9日(土) 【開催国】イタリア
【特徴】イタリア語で「白い道」という意味のレース名の通り、白い未舗装路区間が多数設定されたコースが特徴。雨が降ると跳ね上げた白い泥で選手の顔が真っ白になる。レース終盤、断続的に出現する激坂が勝負どころ。2018年は総合系ライダーのロマン・バルデ(フランス/アージェードゥゼール ラモンディアル)が2位に入るなど、他のレースと比べるとクライマーよりの選手にも勝機があり、様々な脚質の選手が激しくぶつかり合うのが面白い。


2018年は雨が降り、選手が誰かわからない程泥だらけに。

(2)ロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・ド・フランドル)
【開催日】4月7日(日) 【開催国】ベルギー
【特徴】クラシックの中でも特に歴史があり格式があるとされる5つの「モニュメント」。その中でも最上位とされ、クラシックライダーならば誰もが勝ちたいと願う「クラシックの王様」。地元ベルギーではツール・ド・フランスよりも格上のレースとして扱われる程。石畳と急坂の区間が連続するタフなコースが選手の実力を容赦なくあぶり出す。熱く激しい戦いもさることながら、沿道に詰めかけた熱狂的な観客達にも注目。


石畳、急坂、熱狂する観客。クラシックレースの全てが詰め込まれている。

(3)パリ〜ルーベ
【開催日】4月14日(日) 【開催国】フランス
【特徴】「モニュメント」の1つであり、ロンド・ファン・フラーンデレンと並ぶ「クラシックの女王」。このレースの特徴は何といっても石畳。日本で見られる石畳とは全く異なる、大きく尖った石が埋め込まれた石畳セクションではマシントラブルや落車が頻発。別名「北の地獄」と呼ばれ、晴れれば土埃が、雨が降ればスリッピーな路面が選手達を苦しめる。このレース程、勝つために運が必要となるレースはないだろう。


石畳を乗りこなすにはテクニックが必要。


優勝トロフィーはなんと石畳の石。一部のファンからは「漬物石」と呼ばれている。

■ディスクブレーキで戦う2019年シーズン
2018年に本格導入されたディスクブレーキモデル。2019年は5つのチームがディスクブレーキモデルのみで戦うことを表明している。スペシャライズドがサポートするドゥクーニンク・クイックステップ、ボーラ・ハンスグローエもディスクブレーキモデルで走ることを選択したチームだ。
ディスクブレーキモデルは前後のホイールとフレームの固定にスルーアクスルを使用する。これによりバイク全体の剛性が高まり、バイクコントロールがしやすくなり、コーナリングも安定する。
石畳あり、激坂ありのフランドルクラシック、厳しいアップダウンが続くアルデンヌクラシックなど、過酷なコースを駆け抜ける選手達に、ディスクブレーキがもたらす安定感は大きなアドバンテージになるはずだ。
クラシックシーズンもスペシャライズドバイクの快進撃は止まらない。

TarmacDiscについて詳しく>
Vengeについて詳しく>
スペシャライズドのDiscロードバイクを試せる店舗はこちら>


クラシックレースでもTarmac Discは大活躍。まさにオールラウンドバイクだ。©cyclingimages

■今回の記事で紹介した選手達
今回から、記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです!

【筆者紹介】:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。今シーズンもわかりやすくドゥクーニンク・クイックステップを応援しています。普段チームのために身を粉にして働く3人が報われた勝利は格別でした!クラシックシーズン何勝してくれるか楽しみです。

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2019/03/08

縁の下の力持ち、アシスト特集-ディスクブレーキモデルで戦う2019シーズン開幕

自転車レースはチームスポーツ。しかし勝利するのはたった1人の選手だけ。今回はチームメイトを勝利に導くアシスト選手にスポットライトを当てます。

縁の下の力持ち、アシスト特集-ディスクブレーキモデルで戦う2019シーズン開幕

2018年シーズン73勝とチーム最多の勝利数を上げ、今年も勝利量産を目指すドゥクーニンク・クイックステップ。
2019年シーズンもその勢いは止まらない。ただし、勝利した選手の顔ぶれは少し異なる。昨年アシストとしてチームを支えてきた選手達が、今年は表彰台に登っているのだ。

++++++++++

■チームの勝利を支える仕事人達
ドゥクーニンク・クイックステップは少し変わったチームだ。
絶対的なエースを決めず、状況に応じてエースを変えながら戦う。「チームの誰かが勝てばいい」という考え方を集団で狩りをする狼に例え「ウルフパック(狼の群れ)」と呼び、このスローガンをジャージのデザインにも取り入れている。


ジャージの背面上部に狼のシルエットとともにチームスローガン「THE WOLFPACK(狼の群れ)」
がデザインされている。
© Sigfrid Eggers

全員がエースで全員がアシスト、そんなチームでも全ての選手が勝利を上げているわけではない。チームメイトの華やかな勝利を演出しながら、目立ったリザルトを残せない選手も当然存在する。今回紹介する3人の選手もそうだ。彼らは一度も勝利しないまま、2018年シーズンを終えた。

■ゼネク・スティバル(チェコ)ー運に見放された元シクロクロス世界王者
クラシックを主戦場とするドゥクーニンク・クイックステップにおける主力選手の一人、スティバル。シクロクロスの世界チャンピオンに3度輝いたクラシック巧者は、2年間も勝利から遠ざかっていた。あらゆるレースで貪欲に自らの勝利を追い求め続けるが、勝てない。積極的に攻撃を仕掛けるスティバルの動きは絶好のアシストとなり、結果的にチームの2018年クラシックシーズンの勝利量産を演出した。


さすがシクロクロス出身、石畳や激坂といったタフな道に滅法強いスティバル。


オフシーズンのトレーニングで2018-2019シーズンのシクロクロスにスポット参戦。
年始の名物レース、GPスヴェンネイスで特大ジャンプを披露し、会場を沸かせた。
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「クラシックレースを自由に走れるのはありがたい。でも、良い逃げグループに乗り遅れたり、僕の攻撃の後のカウンターアタックが決定的な動きになったり、そんなことばかりが起こる。ここぞという時は、いつも運がないんだ。」―そうインタビューで語っていたスティバルに、「幸運」が舞い込んだ。

1つ目の幸運は、ヴォルタ・アン・アルガルヴェ第5ステージ。集団で息を潜めていたスティバルは最後の1級山岳で他の選手のアタックに反応し、先頭集団へ。そして力強いアタックでステージ勝利をもぎ取った。


アタックを仕掛けるスティバル。一瞬で加速し、後続の選手を置き去りにする。© 2019 Getty Images


2年ぶりの勝利に歓喜するスティバル。© 2019 Getty Images

2つ目の幸運はその後すぐに訪れた。オンループ・ヘットニュースブラッド、石畳のフランドルクラシック開幕戦にしてスティバルが勝利を熱望し続けたレース。実に14年の間、チームが勝利から遠ざかっているレースでもある。クラシックらしい駆け引きや落車が頻発する展開の中、スティバルは精鋭選手で形成される先頭集団に入り込み、他の選手達の攻撃に対応しながら、勝機を待った。そして最終局面で訪れた一瞬のチャンスを逃さずにアタックを仕掛け、独走勝利に持ち込んだ。


オンループ・ヘッドニュースブラッドで嬉しい今季2勝目を上げたスティバル


表彰式ではトロフィーを片手にお茶目なポーズ。「何だって?僕が勝ったって?本当に?まだ信じられないよ!」

経験に裏打ちされた勝負勘と、他の選手を置き去りにする力強いアタックがスティバルの持ち味。スティバルが言う「幸運」とは、例えば先頭集団を構成するメンバーや、他の選手のアタックのタイミングなど、レースを有利に運ぶことができる可能性やチャンスのことだろう。運だけでは勝てないが、運がなければ勝てない。そして幸運を味方につけたスティバルが勝てない理由なんて、どこにもないのだ。

■ティム・デクレルク(ベルギー)ー集団牽引のプロフェッショナル
190p、78s。大柄なデクレルクの仕事は逃げグループと集団のタイム差をコントロールしながら集団を牽引すること。向かい風や横風に負けず長時間先頭を牽き続け、フィニッシュ手前で逃げを捕まえ、その日のエースを安全に先頭へ送り届けたら仕事は終了。あとはチームメイトに勝利を託す役回りだ。


パワフルに集団を牽引するデクレルク。大きな体と広い肩幅が特徴だ。© 2019 Getty Images

だけど、この日は違った。ヴォルタ・アン・アルガルヴェ第5ステージ、デクレルクは自分のために走ることを許されたのだ。彼はレース序盤から逃げに乗り、持ち前の独走力でフィニッシュ手前15qまで逃げ続けた。


逃げグループで走るデクレルク。この逃げで獲得した山岳ポイントが後の嬉しいサプライズに繋がる。
© 2019 Getty Images

この日の結果はスティバルの勝利。デクレルクはフィニッシュ後、ステージを獲ったスティバルへ祝福の言葉をかけていた。お互いの健闘を称え、勝利の喜びを分かち合った後、チームバスに帰ろうとしていたデクレルクはレース主催者から声をかけられる。表彰式へ来るようにと言われ、その時初めて彼は自分が山岳賞を獲得したことを知った。


山岳賞ジャージを表彰台で着用するデクレルク。心なしか緊張している?© 2019 Getty Images

「自分が特別賞のジャージを着るなんて、考えたこともなかった。初めての表彰台だったから、ジャージの前後を間違えて着ようとしちゃったんだ。きっとみんなテレビの前で笑ってくれたよね!きっとこれがキャリアで唯一のジャージになるだろうから、額に入れて自宅のいい場所に飾るんだ。」と嬉しそうにデクレルクは語った。

ヴォルタ・アン・アルガルヴェ第5ステージの主役となったスティバルとデクレルク。スティバルはステージ勝利、デクレルクは山岳賞を獲得。ベテラン選手2人の笑顔が弾ける。

■フロリアン・セネシャル(フランス)ー初勝利を熱望するクラシックスペシャリスト
セネシャルは、スティバルと同じくクラシックレースにおける主力選手の一人だ。2018年のクラシックレースではライバルチームへの攻撃や抑えなどのアシストとして活躍し、大いにチームの快進撃に貢献した。
しかし、セネシャル自身は、まだ一度も勝利を掴んだことがなかった。昨年のドワルズドール・ウェストフランデレンではチームメイトのレミ・カヴァニャ(フランス)をアシストして2位。年下のチームメイトのプロ初勝利を演出しつつも、自らの勝利を狙いたい気持ちもどこかにあっただろう。

そんな彼に勝機が巡ってきたのがル・サミン。春のクラシック3戦目、リトル・パリ〜ルーベと呼ばれる石畳のレースは雨によりトラブルが頻発する厳しい展開となった。優勝候補のエースを抱えるチームが次々と攻撃を仕掛けるが、ドゥクーニンク・クイックステップの数的優位は揺るがない。先頭集団が人数を減らす中、一瞬の隙を逃さず先行したデクレルクを追走する小集団の中でセネシャルは静かにその時を待っていた。ライバルチームの牽引によりデクレルクが捕えられ、勝負はスプリントに持ち込まれる。「デクレルクが逃げてくれたので、スプリントに向けての準備ができた」と言うセネシャルの加速は抜群で、右手を振り上げながら勢いよくフィニッシュラインに飛び込んだ。


マッチスプリントを制して勝利したセネシャル。最後は後続との距離を確認する余裕もあった程。© 2019 Getty Images

「今日は妻の誕生日なんだ。プロ初勝利を彼女の誕生日にプレゼントすることができて嬉しい。忘れられない日になったよ!」と喜びを爆発させるセネシャルは25歳。新人以上、ベテラン未満。未勝利のままでいることに焦る気持ちもあっただろう。表彰台の一番高い場所へ登ったセネシャルの顔は晴れやかだった。


石畳クラシックらしく、表彰台が石畳。3位に入ったニキ・テルプストラ(オランダ/ディレクトエネルジー)は、
昨年までのチームメイトにして2018年ロンド・ファン・フラーンデレン覇者。© 2019 Getty Images


表彰台で乾杯。まさに勝利の美酒。© 2019 Getty Images
 

■クラシックシーズン開幕
今回紹介した3人が普段どれだけチームに貢献しているかを、皆が知っている。ドゥクーニンク・クイックステップの選手達はこぞってスティバル、デクレルク、セネシャルの勝利を喜んだ。祝福の言葉がSNSに並び、彼らがチームの中でどれだけ愛されリスペクトされているのかが伝わってきた。勝った選手はトレーニングメイト達にコーヒーとケーキをご馳走するという習慣があるらしいが、微笑ましい祝宴の場は次のレースの話で持ち切りになるだろう。何故ならば3月から4月は大きなクラシックレースが集中開催される重要な時期だからだ。

クラシックレースは、格式が高く歴史あるワンデーレースの総称である。オンループ・ヘットニュースブラッドを皮切りに本格的なフランドルクラシック、通称「北のクラシック」シーズンがスタート。石畳や急坂が盛り込まれたタフなレースが多いのが特徴だ。
クラシックレースは一日で終わる。ステージレースと異なり、総合狙いで区間勝利のために走らないチームや選手が存在しないため、優勝を狙う選手の数が多く、必然的に激しい争いになる傾向がある。グランツールにはない展開の妙があるので、普段あまりレース観戦をしない方にも是非観ていただきたい

なお、オンループ・ヘッドニュースブラッドの翌日3月3日に開催されたクールネ〜ブリュッセル〜クールネでは、昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを彷彿とさせる独走でボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)が勝利している。
オンループ・ヘッドニュースブラッドからル・サミンまで、ドゥクーニンク・クイックステップはクラシック開幕3戦全勝、今季勝利数を早くも14まで伸ばしている。(3月8日現在)


クールネ〜ブリュッセル〜クールネで独走勝利を果たしたユンゲルス。
TTスペシャリストらしい見事な逃げ切り勝利を飾った。© 2019 Getty Images

レース終盤、独走するユンゲルスを捕えようとスプリンターを擁するチームがペースアップを試みるも、先頭に集まったドゥクーニンク・クイックステップの選手達に妨害されてスピードを上げることができない。他のチームとうまく連携できず、奇しくもユンゲルスと同郷で個人タイムトライアルナショナルチャンピオンになったこともあるジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク/ボーラ・ハンスグローエ)がチームメイトのパスカル・アッカーマン(ドイツ)のために長時間先頭を牽き続けた。


クールネ〜ブリュッセル〜クールネで先頭を牽き続けたドリュケール。
ドゥクーニンク・クイックステップの選手達に包囲されながらも懸命に前を追い続けた。


ペテル・サガン(スロバキア)の右腕として活躍するダニエル・オス(イタリア)も本格的にクラシックシーズンイン。

自らの勝利を捨てチームに貢献するアシストのひたむきな走りが、エースの勝利を引き寄せる。アシスト選手の献身を背負い、エースは勝利のために走る。だが、どんなに強い選手がどんなに良いアシストを受けて良い走りをしても、最後は運がなければ勝てないのが自転車ロードレース。マシントラブル、落車、突然の失速…どれだけ準備をしても完全に取り除くことができない不確定要素がそこにはある。だからこそ、全てが噛み合った時に手にする勝利は格別だ。 そして、チームを下支えするアシスト選手にも是非注目してほしい。彼らの多くは、大きな勝利を手にせずにキャリアを終える。勝負に直接絡んでいないようにも見えてしまうアシスト選手達の動きがレースの展開を決定づけることも少なくない。そして、そんなアシスト選手が勝利するレースもまた、格別だ。

■2019クラシックシーズン観戦ガイド
この記事をご覧になって「クラシックレースを観てみようかな」と思ってくださった方向け、独断と偏見に基づくおすすめレースを紹介する。
※全てJスポーツまたはDAZNでライブ配信予定。


(1)ストラーデ・ビアンケ
【開催日】3月9日(土) 【開催国】イタリア
【特徴】イタリア語で「白い道」という意味のレース名の通り、白い未舗装路区間が多数設定されたコースが特徴。雨が降ると跳ね上げた白い泥で選手の顔が真っ白になる。レース終盤、断続的に出現する激坂が勝負どころ。2018年は総合系ライダーのロマン・バルデ(フランス/アージェードゥゼール ラモンディアル)が2位に入るなど、他のレースと比べるとクライマーよりの選手にも勝機があり、様々な脚質の選手が激しくぶつかり合うのが面白い。


2018年は雨が降り、選手が誰かわからない程泥だらけに。

(2)ロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・ド・フランドル)
【開催日】4月7日(日) 【開催国】ベルギー
【特徴】クラシックの中でも特に歴史があり格式があるとされる5つの「モニュメント」。その中でも最上位とされ、クラシックライダーならば誰もが勝ちたいと願う「クラシックの王様」。地元ベルギーではツール・ド・フランスよりも格上のレースとして扱われる程。石畳と急坂の区間が連続するタフなコースが選手の実力を容赦なくあぶり出す。熱く激しい戦いもさることながら、沿道に詰めかけた熱狂的な観客達にも注目。


石畳、急坂、熱狂する観客。クラシックレースの全てが詰め込まれている。

(3)パリ〜ルーベ
【開催日】4月14日(日) 【開催国】フランス
【特徴】「モニュメント」の1つであり、ロンド・ファン・フラーンデレンと並ぶ「クラシックの女王」。このレースの特徴は何といっても石畳。日本で見られる石畳とは全く異なる、大きく尖った石が埋め込まれた石畳セクションではマシントラブルや落車が頻発。別名「北の地獄」と呼ばれ、晴れれば土埃が、雨が降ればスリッピーな路面が選手達を苦しめる。このレース程、勝つために運が必要となるレースはないだろう。


石畳を乗りこなすにはテクニックが必要。


優勝トロフィーはなんと石畳の石。一部のファンからは「漬物石」と呼ばれている。

■ディスクブレーキで戦う2019年シーズン
2018年に本格導入されたディスクブレーキモデル。2019年は5つのチームがディスクブレーキモデルのみで戦うことを表明している。スペシャライズドがサポートするドゥクーニンク・クイックステップ、ボーラ・ハンスグローエもディスクブレーキモデルで走ることを選択したチームだ。
ディスクブレーキモデルは前後のホイールとフレームの固定にスルーアクスルを使用する。これによりバイク全体の剛性が高まり、バイクコントロールがしやすくなり、コーナリングも安定する。
石畳あり、激坂ありのフランドルクラシック、厳しいアップダウンが続くアルデンヌクラシックなど、過酷なコースを駆け抜ける選手達に、ディスクブレーキがもたらす安定感は大きなアドバンテージになるはずだ。
クラシックシーズンもスペシャライズドバイクの快進撃は止まらない。

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スペシャライズドのDiscロードバイクを試せる店舗はこちら>


クラシックレースでもTarmac Discは大活躍。まさにオールラウンドバイクだ。©cyclingimages

■今回の記事で紹介した選手達
今回から、記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです!

【筆者紹介】:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。今シーズンもわかりやすくドゥクーニンク・クイックステップを応援しています。普段チームのために身を粉にして働く3人が報われた勝利は格別でした!クラシックシーズン何勝してくれるか楽しみです。

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