2024.01.15

New Season, New Ambition|スペシャライズドサポートチームの2024シーズン展望

今年のスペシャライズドライダーたちの目標は?チームの布陣はどう変わった?シーズン本格始動の前に注目ポイントをチェックしておきましょう。

2024年、スペシャライズドはロードレースにおけるファーストディヴィジョンに所属する4つのワールドツアーチームをサポートする。スーダル・クイックステップ、ボーラ・ハンスグローエ、チーム SDワークス、そして今年から昇格したAGインシュランス・スーダル。それぞれのチームの今季の注目ポイントを紹介していく。

選手たちがレースバイクとして使用する新型Tarmac SL8について詳しく>
 


【男子】

スーダル・クイックステップ(ベルギー)

青と白を基調としたチームキットでお馴染みの名門チーム。「ウルフパック(狼の群れ)」を自称し、個の力とチームワークを組み合わせて集団で狩りをする狼のように戦う。昨年は10年ぶりに来日、ジャパンカップを走り日本のファンたちを大いに熱狂させた。


大声援を受けて宇都宮を走ったスーダル・クイックステップの選手たち。©Keisuke Kitaguchi

昨シーズンは55勝。うち12勝を挙げたのが今やチームの絶対エースとなったレムコ・エヴェネプール(ベルギー)で、その彼が世界最大にして最高峰のレースであるツール・ド・フランスデビューを飾るというのが2024年の最重要トピックである。

昨年に続きエヴェネプールは世界王者の証アルカンシェル(虹色のジャージの意)を着る。今年は個人タイムトライアルでの着用だ。

目標はブエルタ・ア・エスパーニャに続く総合優勝…ではなく、総合5位以内入賞だという。エヴェネプールは野心家かつ自信家だが、同時に現実主義者でもある。ツール総合優勝を争って別次元の戦いを繰り広げてきたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)に簡単に勝てるとは考えていない。ツール・ド・フランスは、グランツールレーサーとしてはまだまだ発展途上にあるエヴェネプールにとってはキャリア最大の挑戦となるだろう。主役の1人として彼らと渡り合えるかどうか、世界中が注目している。新たに経験豊かなミケル・ランダ(スペイン)が加入する「チーム・エヴェネプール」をどう率いるのかも見ものだ。
 

グランツール上位入賞常連のランダ(34)との協力関係を築くことができるか、エヴェネプール(23)

控えめな総合成績への野望とは対照的に、もう1つの目標であるステージ優勝には自信をのぞかせる。既にジロ・デ・イタリアでステージ2勝、ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ5勝を挙げており、ツールで勝てば全グランツールステージ勝利の栄誉を手にする。エヴェネプールはひそかにチームスタッフとフランスに向かい、今年のツールのいくつかのコースの試走を済ませているようだ。そのうち1つは個人タイムトライアル世界王者にうってつけの個人タイムトライアルステージ。7月に向けて、周到に準備を進めていくに違いない。もちろんプロ6年目をツールデビューだけで終わらせるつもりはなく、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュの3連勝、パリ五輪、世界選手権での勝利も狙っていく。ビッグレースに照準を合わせるため、今年は例年よりレース数を減らして高地トレーニングを充実させる予定だ。

エヴェネプールの成長と共にグランツール総合優勝を見据えるチームへの変革の真っ只中にある「ウルフパック」だが、一方でチーム発足以来のアイデンティティと言える石畳クラシックでは苦戦を強いられている。この分野での再起の鍵はジュリアン・アラフィリップ(フランス)だ。今年はツール・ド・フランドルをターゲットに据える。ここ数年は落車、怪我などの不運が続き本来の力を発揮できずにいるが、2020年はマチュー・ファンデルプール(オランダ)、ワウト・ファンアールト(ベルギー)ら世界トップクラスのクラシック巧者たちと渡り合った実力の持ち主。厳しい冬を乗り越え、実りある春を迎えられることを願おう。


なお、今年のアラフィリップはツール・ド・フランスではなくジロ・デ・イタリアに出場予定。狙うはステージ優勝。エヴェネプールと同じく、勝つことができれば全グランツールステージ勝利選手の仲間入りだ。

2024年新キットを見事なダンスとともに発表したアラフィリップ。この勢いで春に乗り込みたい。
 

最後にスプリントチームについて触れておこう。ファビオ・ヤコブセン(オランダ)をはじめトレインを担う多くの選手たちがチームを去ったが、もともと選手の入れ替えに伴うスプリント体制の再構築は得意なチームである。エーススプリンターのティム・メルリール(ベルギー)は器用に立ち回ることができる選手だし、新たにチームに加入するルーク・ランパーティ(アメリカ)はスプリンターの枠に留まらない骨太な素質を持ち、ワンデークラシックでの活躍も期待される。

21歳の新星ランパーティ。昨年のツアー・オフ・ジャパンで区間3勝しポイント賞を獲得している。

ボーラ・ハンスグローエ(ドイツ)

かつての「チーム・サガン」が新たな一歩を踏み出そうとしている。2022年にジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)をジロ・デ・イタリア表彰台の一番高い場所に届けたドイツの雄が、最強の切り札を手にしてツール・ド・フランス制覇に挑む。

そもそもツール・ド・フランス総合優勝を目指すことを許される選手は、ほんの一握りだ。登坂力、スプリント力、独走力。全てを高い次元で兼ね備えていなければならない。例えばヴィンゲゴー。ポガチャル。もしかしたら、未知の可能性を秘めるエヴェネプール。
そして、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)。そのログリッチが、ボーラ・ハンスグローエに加入したのだ。

ログリッチの電撃加入はロードレース界を揺るがす事件だった。

現ロードレース界最強の一角であるログリッチは、元スキージャンパーというユニークな経歴を持つ無二の才能である。まだ手にしていない数少ないビッグタイトルの1つがツール・ド・フランス総合優勝で、それを掴むために彼はボーラ・ハンスグローエにやって来た。

チーム首脳陣は新リーダーであるログリッチとのツール獲りに全力を注ぐ予定だ。ダニエル・マルティネス(コロンビア)マッテオ・ソブレロ(イタリア)などグランツールでエースを支える名手の獲得も見逃せない。期待の若手キアン・アイデブルックス(ベルギー)は移籍を選んだが、チームにはアレクサンドル・ウラソフレナード・ケムナ(ドイツ)ら実績ある選手が揃っている。ログリッチのための最高のチームができるだろう。

なおログリッチは春のワンデークラシック参戦を見送り、7月のツールに備える。スペシャライズドバイクでのレースデビューは、3月のパリ〜ニースになる予定だ。

東京五輪個人タイムトライアル金メダリストのログリッチがShiv TTを駆る。

スプリントチームは新加入サム・ウェルスフォード(オーストラリア)と昨年のシャンゼリゼ覇者ヨルディ・メーウス(ベルギー)の二枚看板で行く。世界最高のリードアウトマンの呼び声高いダニー・ファンポッペル(オランダ)が勝利請負人になってくれるだろう。


【女子】

チーム SDワークス(オランダ)

女子ロードレース界の最強チームは2023年もあらゆるレースで勝ちを重ねた。チームの3本柱―ついにツール・ド・フランス ファム アヴェク ズイフトを制したデミ・フォレリング(オランダ)、念願の世界女王の座に就いたロッタ・コペッキー(ベルギー)、そして最強スプリンターのロレーナ・ウィーベス(オランダ)―は今年も健在で、勝利を量産すること間違いなし。第一子出産のためチームを離れていた元世界女王にしてクラシックスペシャリストのシャンタル・ブラーク(オランダ)の復帰により、昨季に増して強力な布陣が完成するだろう。

メンバーの入れ替えは最小限で、昨年も活躍した超強力なメンバーが揃っている。

気になるのはツール・ファムの2連覇だが、他のレースでも彼女たちを先頭に見ないことはないはずだ。女子レースを観戦する時は鮮やかな色彩で幾何学模様をあしらった大胆なジャージと、美しいグラデーションのTarmac SL8に注目してほしい。

様々な色が調和を織りなすジャージ。個性豊かな強豪選手たちが協調しながら勝利を引き寄せるSDワークスにぴったりのデザインだ。

AGインシュランス・スーダル(ベルギー)

AGインシュランス・スーダルは女子「ウルフパック」チーム。今年、チーム創設以来の悲願だったファーストディヴィジョンであるワールドツアーチームへ昇格。エリートチームに加えてジュニアとU23の育成チームを保有しており、若い選手に投資し長期的に育成、持続的にトップレベルの選手を輩出することを目指している(ちなみに男子チームのボーラ・ハンスグローエも同様の3層のチーム構成を持ち、育成に力を入れている)。

そして、その営みは徐々に花開きつつある。3年前チームに加入したアリー・ウォラストン(ニュージーランド)がサントス・ツアー・ダウンアンダー第1ステージでチーム初のワールドツアー勝利を達成。これはウォラストン1人で勝ち取ったものではなく、チームの組織力の勝利である。

登り基調のロングスプリントを制したウォラストン。こうしたレイアウトでは他のメンバーがいかにエースを守り温存するかがポイントになる。

チームエースは昨年引退を撤回して加入した大ベテランのアシュリー・モールマン(南アフリカ)が引き続き務める。今季は怪我からの復調を見せるサラ・ジガンテ(オーストラリア)らが加入し、厚みを増した選手層で更なる勝利に向かっていく。

【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。

池田 綾さんの記事はこちらから>

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