春の嵐、止まらないアラフィリップの快進撃-Tarmac、そしてVenge、スペシャライズドと走った軌跡を振り返る

2019/03/29

春の嵐、止まらないアラフィリップの快進撃-Tarmac、そしてVenge、スペシャライズドと走った軌跡を振り返る

ジュリアン・アラフィリップの勢いが止まらない。レースに出れば勝つ、そんな強さを感じさせるアラフィリップを特集します。

■ハンドル叩きのシルバーコレクター、成長の足跡
2019年シーズンは序盤から勝ち星を重ね、遂にクラシック最高峰「モニュメント」の一つであるミラノ〜サンレモの覇者となったジュリアン・アラフィリップ(フランス/ドゥクーニンク・クイックステップ)。26歳にして世界屈指の勝負師へと成長を遂げた彼の主な戦績を振り返ってみよう。

●キャリア初勝利を飾った2014年
―ツール・ド・ランでステージ勝利。さらにポイント賞、新人賞を獲得。

●頭角を現し始めた2015年
―フレーシュ・ワロンヌ2位。
―リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位。
―ツアー・オブ・カリフォルニア、クイーンステージ優勝。総合リーダージャージに袖を通し、新星フランス人選手として注目を集める。
  しかし最終日の第8ステージでペテル・サガン(スロバキア/現ボーラ・ハンスグローエ)に逆転され2位に終わる。新人賞を獲得。

●勝ちきれない2016年
―フレーシュ・ワロンヌ2位。
―前年の悔しさを晴らすツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝。
―ツール・ド・フランス前哨戦クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで新人賞を獲得。
―ツール・ド・フランス初参戦。ステージ勝利を目指して力走するが、第2ステージではサガンに敗れ2着。個人タイムトライアルステージでは落車、崖に激突するなど、果敢な走りに結果が伴わないまま初のツールを終えた。


「僕は空を飛べると思った」という面白コメントがついているが、全く笑えない写真。これだけ派手にクラッシュしたにも関わらず無傷で、翌日元気に出走している。


第16ステージでは個人タイムトライアル世界チャンピオンに4度輝いた偉大なるトニー・マルティン(ドイツ/現チームユンボ・ヴィスマ)とチームメイト同士のタンデム逃げを敢行。逃げ切りは叶わなかったが、敢闘賞を2人で獲得した。翌日は2人揃って敢闘賞の赤ゼッケンを付けて走った。

―リオ五輪ロードレース4位。
―ヨーロッパ選手権2位。

悪くはない成績だが、あと一歩のところで勝ちきれない。「いつもハンドルを叩いて悔しがっている」、そんなイメージがついてきたのがこの頃だ。


フレーシュ・ワロンヌは2015・2016年2位、いずれもアレハンドロ・バルベルデ(スペイン/モビスター)に敗れている。
悔しそうに思い切りハンドルを叩く姿が印象的。Photo:Davy Rietbergen/Cor Vos

●試練の2017年
―アブダビ・ツアー新人賞
―パリ〜ニースでステージ2勝と新人賞。個人タイムトライアルステージで勝利を挙げ、リーダージャージを着用。
―ミラノ〜サンレモ3位。

シーズン序盤に調子を上げる中、膝の痛みが続き手術を受けることになり、アルデンヌ・クラシックとツールを欠場。試練のシーズンとなったが、復帰後のブエルタ・ア・エスパーニャで初のグランツールステージ勝利。次のシーズンでの躍進を予感させる勝利となった。

「レースは僕を待っていてくれる」と手術後は回復に専念。

●大躍進の2018年
―フレーシュ・ワロンヌで勝利。念願にして初のワンデークラシックタイトルを手にした。
―クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでステージ1勝。
―ツール・ド・フランスでステージ2勝に加えて山岳賞ジャージを獲得。地元フランスを大いに盛り上げた。


Tarmacを駆るアラフィリップ。ツール・ド・フランス2018では赤い水玉の山岳賞ジャージを着用するなど、登坂での強さが光った。フレーシュ・ワロンヌで勝利してからゲン担ぎで髭を伸ばすようになり、精悍な雰囲気に。©Gettyimage

―クラシカ・サンセバスティアン優勝。
―ツアー・オブ・ブリテンでステージ1勝と総合優勝。
―ツアー・オブ・スロバキア総合優勝。

優勝候補として臨んだインスブルック世界選手権は8位に終わったが、キャリア最大の成功を収めたシーズンと言える。悔し涙は嬉し涙に変わり、ヤングライダー賞対象年齢からの卒業とともに、強豪選手としてリザルトを重ねていく。

■快進撃の2019年
2019年シーズンのカレンダーはまだ3ヶ月しか進んでいないが、アラフィリップは既に7勝(チームは19勝)を挙げている。(※2019年3月26日現在)
そしてビックタイトルを既に2つ手にした。ストラーデビアンケと、5大クラシックに数えられるミラノ〜サンレモだ。

●ストラーデビアンケ(イタリア/UCIワールドツアー/ワンデーレース)
今年で13回目の開催となる若いレースながら「第6のモニュメント」の呼び声も高いイタリアのワンデークラシック。「白い道」を意味するレース名の通り、白い砂利の未舗装路が11区間、合計63kmにわたって設定されている。

2017年は雨が降り白い泥が選手を苦しめたが、2018年は晴天。白い砂埃を巻き上げながら進むプロトンからはアタック、そして吸収が断続的に繰り返される激しい展開となった。


イタリア・トスカーナ地方の美しい丘陵地帯を舞台に激しい戦いが繰り広げられた。© 2019 Getty Images

先頭集団に3人を残していたドゥクーニンク・クイックステップがレースを支配。急勾配の未舗装路区間でのヤコブ・フルサング(デンマーク/アスタナ)のアタックに、ファンアールト(ベルギー/チームユンボ・ヴィズマ)とともにアラフィリップが追随。追走集団はイヴ・ランパールト(ベルギー)、ゼネク・スティバル(チェコ)がコントロールし、ライバルチームを完全に封じ込めた。

アラフィリップは何度も攻撃を仕掛けるフルサングから離れることなくフィニッシュ地点のシエナ旧市街まで到達。残り数百メートルの狭い市街路で加速を切り、一気にフルサングを抜き去ってゴールに飛び込んだ。34歳のベテラン・フルサングとの駆け引きを制した26歳アラフィリップの勝負強さが光ったレースとなった。


この日のアラフィリップの相棒はTarmac Disc。ブレーキフォースを考慮せずにシートステーを設計できるため快適性が高く、未舗装路もストレスなく進む。© 2019 Getty Images


観客が詰めかけるカンポ広場に設置されたフィニッシュゲートに真っ先に飛び込むアラフィリップ。© 2019 Getty Images

●ミラノ〜サンレモ(イタリア/UCIワールドツアー/ワンデーレース)
アラフィリップの2019シーズン序盤の目標はイタリアでのビッグレース。すなわち、ストラーデビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、そしてミラノ〜サンレモである。
宣言通りストラーデビアンケを勝ち、ティレーノ〜アドリアティコは総合順位こそ6位で終わったがステージ2勝。しかも第6ステージはサガンらスプリンター達を相手に集団スプリントで勝利。フィニッシュ手前1kmが緩い登りだったとはいえ、この勝利はサプライズだった。


バンチスプリントでまさかの勝利。この日は調子が良く、エーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)からスプリントに参加する権利を貰ったとのこと。それで勝ってしまうのだから凄い。© 2019 Getty Images

5大クラシック初戦にして「ラ・プリマヴェーラ(春)」の別称を持つミラノ〜サンレモ。291qとUCI認定レース中、最長の距離を誇る。
コース終盤に登場するチプレッサ、ポッジオの2つの登りが勝負所で、長距離を走って脚とスタミナを奪われた選手達がこの登りをどう攻略するかにより展開が変わってくる。人数を保ったまま登りを超えればスプリンター達による集団スプリント、登りで飛び出し先行するパンチャー系の選手が現れれば逃げ切りか、少人数のスプリントで勝負が決まる。

ドゥクーニンク・クイックステップはあらゆる展開に対応できる布陣を組んだ。終盤までの牽引を担うティム・デクレルク(ベルギー)、集団スプリントになった場合に備えてエーススプリンターのヴィヴィアーニとリードアウトのマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)、そして攻守自在に動き、自ら勝ちに行くこともできるフィリップ・ジルベール(ベルギー)、スティバル、ランパールト、アラフィリップ。エースナンバーはアラフィリップに託された。

デクレルクが牽き、スティバル、ジルベール、ランパールトがアラフィリップのために集団内で安全な位置を確保し、時に陽動に打って出る。レースが本格的に動き出したポッジオで、それまで静かに息を潜めていたアラフィリップが鋭い加速で先行。これに各チームのエース達が反応し、精鋭が揃う集団が形成された。ポッジオの頂上を越え、下り終わると市街地の平坦路。アラフィリップが先駆けを狙うライバル達のアタックをチェックしたことで、勝負はエース達による小集団スプリントで決することになる。

最終局面でもアラフィリップは冷静だった。ペテル・サガン(スロバキア)、マッテオ・トレンティン(イタリア/ミッチェルトン・スコット)といったスプリント力のある選手をマークしながら、真っ先にスプリントを開始したマテイ・モホリッチ(スロベニア/バーレーン・メリダ)に反応し自分もスプリントに入る。モホリッチをパスし、速度を上げていくアラフィリップ。誰も横に並んでいないことを確認したアラフィリップは、フィニッシュライン直前で大きく手を上げた。


2017年3位で終わったリベンジを果たしたアラフィリップ。僅差で敗れたミハウ・クフィアトコウスキー(ポーランド/チーム・スカイ)とサガンを従えてフィニッシュラインを通過した。© 2019 Getty Images

一撃必殺のアタックと、クレバーなスプリント。おそらく、「こうしたら勝てる」というアラフィリップの筋書き通りにレース最終局面が動いた。いや、アラフィリップがそうなるよう自ら仕掛けた。
ロードレースはシンプルだ。その日一番強い選手が勝つ。この日一番強かったのはアラフィリップで、それを演出したのはチームメイト達だった。そうして、アラフィリップはモニュメント覇者になったのだった。


モニュメントを勝ってもアラフィリップはアラフィリップ。お茶目なことをせずにはいられない。© 2019 Getty Images

■ニックネームの変遷と素顔
ユニークなニックネームを持つロードレース選手は数多く存在するが、アラフィリップもその一人だ。フランス陸軍チームで走っていた際のニックネームはなんと「脱走兵」。元気よく逃げてばかりいたことが由来らしい。確かにキャリア初期のアラフィリップは果敢にアタックするものの、持続せず自滅してしまうことが多かった。

その後オメガファーマ・クイックステップ(当時)の育成チームへ移り、エリートチームへ上がってから、現在までずっと同じチームで走り続けている。ドゥクーニンク・クイックステップの生え抜き選手だからなのか、チームが「ウルフパック(狼の群れ)」を名乗り出してからは「ルル(フランス語で狼ちゃんの意)」と呼ばれるようになり、チームのマスコット的な扱いが定着した。

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移動中、音楽に合わせてノリノリで踊るアラフィリップ。チームのSNSでは愉快なアラフィリップシリーズが定期的にアップされている。

実際、アラフィリップはチームの輪の中心にいることが多い。バイクの上でも降りた後でも、とにかく元気で陽気。おとなしくしている時がないのではというくらい、踊ったり、歌を歌ったり、変顔をしたりと忙しい。

「悪魔に会った!」と言うアラフィリップ。ツール・ド・フランス名物、悪魔おじさんの槍を借りてご機嫌だ。

ミラノ〜サンレモ表彰式で2位オリバー・ナーゼン(ベルギー/アージェードゥゼール・ラモンディアル)と3位クフィアトコウスキーから祝福のスプマンテシャワーを浴びるアラフィリップ。チームを超えて愛されている選手だ。

感情表現が豊かで、情に厚く、勝っても負けても泣く。ミラノ〜サンレモでは優勝インタビューの後、涙を流しながら喜びを噛みしめる姿が中継で放送された。

嬉し涙のアラフィリップ。優勝インタビューではチームメイトの献身を称え、感謝の言葉を述べていた。

レースで勝った後は真っ先にスタッフとチームメイトのところへ行き、喜びを分かち合う。このチームは全員がそうだが、チームメイトの勝利を自分の勝利と捉えて、アシスト役に回る時にも手を抜かず、勝った時には自分の勝利のように喜ぶ。全身で感情を表現するアラフィリップは特にわかりやすい。


ミラノ〜サンレモ勝利後の一幕。チームを心から愛し、またチームからも愛されている選手であることが感じられる。©cyclingimages

ツール・ド・フランス2018第10ステージで初のステージ勝利を飾ったアラフィリップがその時の心境を語る動画。フィニッシュするまでのお調子者ぶりはどこへやら、ゴール後は男泣き。まるで子供のように表情がくるくると変わる。

ちなみに、家族からは「ジュジュ」と呼ばれている。ツール・ド・フランス2018ドキュメンタリーではツール初勝利を家族に嬉しそうに報告していた。度々SNSに弟との写真をアップするなど、家族とは非常に仲が良いようだ。

ツール・ド・フランス2018でのステージ勝利後、母親に電話するアラフィリップ。動画の最後では父親から電話がかかってくる。普段から両親と密に連絡を取り合っている様子が伺える。

父親がオーケストラの指揮者を長年務めていた影響か、アラフィリップは公立音楽院でドラムを学んでいた。自転車を始めたのは13歳の時。「音楽は自転車と同じように、僕に活力を与えてくれる」と言い、今も時々チームメイトにその腕前を披露している。

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ドラムを叩くアラフィリップ。自転車選手ではなくミュージシャン、と言われてもわからない。

■未だ発展途上、道の途中
最後に、アラフィリップの今後について少し思いを馳せてみたい。
彼は一体、何者なのか。
シクロクロス出身で悪路に強く(未舗装路が多数登場するストラーデビアンケで勝利)、
登りにも強く、クライマーとも渡り合うことができ(ツール・ド・フランス山岳賞)、
激坂を登り、鋭いアタックでライバルを突き放すパンチャーでもあり(フレーシュ・ワロンヌ、ミラノ〜サンレモ勝利)、
集団スプリントで勝利するスプリンターでもある(ティレーノ〜アドリアティコスプリントステージ勝利)。
現時点での勝利数7は個人最多、UCIワールドランキングのトップに躍り出た。(※2019年3月26日現在)

こんな選手が他にいるだろうか。クラシックを主戦場にしているが、今や出場するステージレースのほとんどで総合優勝候補だ。タイムトライアルだって遅くはない。本気になればどんなレースも勝つことができるのではないかと思ってしまう。

2019年はバスク一周レースを経て、アルデンヌ・クラシックとツール・ド・フランスを走る。アルデンヌとツールが好きだ、という彼のことだ、きっと勝利を量産するだろう。もしかしたら、もう一度あの赤い水玉ジャージを着るつもりなのかもしれない。

その後の予定は正式には発表されていないが、気になるのはイギリス・ヨークシャーで開催される世界選手権。どうしても虹色のアラフィリップを期待したくなる。
そして気が早いが、東京五輪ロードレース。もし勝ちに来るとしたら、間違いなく優勝候補の一人だろう。

そんなアラフィリップの成長を支えてきたのがスペシャライズドバイクだ。2018シーズンはTarmacを相棒としてきた。2019シーズンはツール・ド・フランス2018山岳賞を記念して作られた特別デザインのTarmacが用意されている。


特別デザインのTarmac Disc。深い青のグラデーションが美しい。フランス国内限定販売で 残念ながら日本では未発売。©BettiniPhoto


フレームの細かい文様に注目。「アラフィリップの力強く攻撃的な走りと、イカした唯一無二のキャラ」をオマージュしてデザインされた。©BettiniPhoto

そして、2019シーズンに入ってからはVengeを使用するようになった。ティレーノ〜アドリアティコ第6ステージの集団スプリント、ミラノ〜サンレモもVengeで勝利している。
今シーズンアラフィリップが見せているキレのあるスプリントを支えているのは、Vengeなのだ。

ドゥクーニンク・クイックステップは今シーズンディスクブレーキモデルだけで戦うことを表明しているチームの1つだ。今やサガンに次ぐバイクコントロール巧者と言われるアラフィリップにとって、コーナリングなどの動作が安定しているディスクブレーキモデルはよき相棒になるだろう。スプリントやアタックの際はスルーアクスルが力を逃さず推進力に変えてくれる。Vengeを手にしたアラフィリップは、更に新しい勝ち方を我々に見せてくれるかもしれない。


2019年はVengeを積極的に活用するようになったアラフィリップ。Tarmac Discとの使い分けで勝利を大きく引き寄せることだろう。©cyclingimages

TarmacDiscについて詳しく>
Vengeについて詳しく>
スペシャライズドのDiscロードバイクを試せる店舗はこちら>

■今回の記事で紹介した選手-プロ選手チップス
記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです!
今回特集したアラフィリップはきっとレアカードのはず。

【筆者紹介】:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。満を持して大ブレイク中のアラフィリップ特集です。アヤフィリップとか言ってますが、2016年アラフィリップが謎のアタックと失速を繰り返していた頃についたニックネームのため、彼が強豪選手に成長した今、ただただ恐れ多いばかりです…。シルバーコレクターだった彼がブレイクしていくのは嬉しいですね!まだまだ伸びる選手だと思うので、今後が楽しみです。

関連記事:
お待たせいたしました! 限定VENGE&TARMACフレーム チームカラーを発売します!(2019年2月18日)
Back to the pack−ヴァコッチのレース復帰への道のりと、ライドのリスクに備えるANGi搭載ヘルメット(2019年2月5日)

2019/03/29

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ジュリアン・アラフィリップの勢いが止まらない。レースに出れば勝つ、そんな強さを感じさせるアラフィリップを特集します。

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■ハンドル叩きのシルバーコレクター、成長の足跡
2019年シーズンは序盤から勝ち星を重ね、遂にクラシック最高峰「モニュメント」の一つであるミラノ〜サンレモの覇者となったジュリアン・アラフィリップ(フランス/ドゥクーニンク・クイックステップ)。26歳にして世界屈指の勝負師へと成長を遂げた彼の主な戦績を振り返ってみよう。

●キャリア初勝利を飾った2014年
―ツール・ド・ランでステージ勝利。さらにポイント賞、新人賞を獲得。

●頭角を現し始めた2015年
―フレーシュ・ワロンヌ2位。
―リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位。
―ツアー・オブ・カリフォルニア、クイーンステージ優勝。総合リーダージャージに袖を通し、新星フランス人選手として注目を集める。
  しかし最終日の第8ステージでペテル・サガン(スロバキア/現ボーラ・ハンスグローエ)に逆転され2位に終わる。新人賞を獲得。

●勝ちきれない2016年
―フレーシュ・ワロンヌ2位。
―前年の悔しさを晴らすツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝。
―ツール・ド・フランス前哨戦クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで新人賞を獲得。
―ツール・ド・フランス初参戦。ステージ勝利を目指して力走するが、第2ステージではサガンに敗れ2着。個人タイムトライアルステージでは落車、崖に激突するなど、果敢な走りに結果が伴わないまま初のツールを終えた。


「僕は空を飛べると思った」という面白コメントがついているが、全く笑えない写真。これだけ派手にクラッシュしたにも関わらず無傷で、翌日元気に出走している。


第16ステージでは個人タイムトライアル世界チャンピオンに4度輝いた偉大なるトニー・マルティン(ドイツ/現チームユンボ・ヴィスマ)とチームメイト同士のタンデム逃げを敢行。逃げ切りは叶わなかったが、敢闘賞を2人で獲得した。翌日は2人揃って敢闘賞の赤ゼッケンを付けて走った。

―リオ五輪ロードレース4位。
―ヨーロッパ選手権2位。

悪くはない成績だが、あと一歩のところで勝ちきれない。「いつもハンドルを叩いて悔しがっている」、そんなイメージがついてきたのがこの頃だ。


フレーシュ・ワロンヌは2015・2016年2位、いずれもアレハンドロ・バルベルデ(スペイン/モビスター)に敗れている。
悔しそうに思い切りハンドルを叩く姿が印象的。Photo:Davy Rietbergen/Cor Vos

●試練の2017年
―アブダビ・ツアー新人賞
―パリ〜ニースでステージ2勝と新人賞。個人タイムトライアルステージで勝利を挙げ、リーダージャージを着用。
―ミラノ〜サンレモ3位。

シーズン序盤に調子を上げる中、膝の痛みが続き手術を受けることになり、アルデンヌ・クラシックとツールを欠場。試練のシーズンとなったが、復帰後のブエルタ・ア・エスパーニャで初のグランツールステージ勝利。次のシーズンでの躍進を予感させる勝利となった。

「レースは僕を待っていてくれる」と手術後は回復に専念。

●大躍進の2018年
―フレーシュ・ワロンヌで勝利。念願にして初のワンデークラシックタイトルを手にした。
―クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでステージ1勝。
―ツール・ド・フランスでステージ2勝に加えて山岳賞ジャージを獲得。地元フランスを大いに盛り上げた。


Tarmacを駆るアラフィリップ。ツール・ド・フランス2018では赤い水玉の山岳賞ジャージを着用するなど、登坂での強さが光った。フレーシュ・ワロンヌで勝利してからゲン担ぎで髭を伸ばすようになり、精悍な雰囲気に。©Gettyimage

―クラシカ・サンセバスティアン優勝。
―ツアー・オブ・ブリテンでステージ1勝と総合優勝。
―ツアー・オブ・スロバキア総合優勝。

優勝候補として臨んだインスブルック世界選手権は8位に終わったが、キャリア最大の成功を収めたシーズンと言える。悔し涙は嬉し涙に変わり、ヤングライダー賞対象年齢からの卒業とともに、強豪選手としてリザルトを重ねていく。

■快進撃の2019年
2019年シーズンのカレンダーはまだ3ヶ月しか進んでいないが、アラフィリップは既に7勝(チームは19勝)を挙げている。(※2019年3月26日現在)
そしてビックタイトルを既に2つ手にした。ストラーデビアンケと、5大クラシックに数えられるミラノ〜サンレモだ。

●ストラーデビアンケ(イタリア/UCIワールドツアー/ワンデーレース)
今年で13回目の開催となる若いレースながら「第6のモニュメント」の呼び声も高いイタリアのワンデークラシック。「白い道」を意味するレース名の通り、白い砂利の未舗装路が11区間、合計63kmにわたって設定されている。

2017年は雨が降り白い泥が選手を苦しめたが、2018年は晴天。白い砂埃を巻き上げながら進むプロトンからはアタック、そして吸収が断続的に繰り返される激しい展開となった。


イタリア・トスカーナ地方の美しい丘陵地帯を舞台に激しい戦いが繰り広げられた。© 2019 Getty Images

先頭集団に3人を残していたドゥクーニンク・クイックステップがレースを支配。急勾配の未舗装路区間でのヤコブ・フルサング(デンマーク/アスタナ)のアタックに、ファンアールト(ベルギー/チームユンボ・ヴィズマ)とともにアラフィリップが追随。追走集団はイヴ・ランパールト(ベルギー)、ゼネク・スティバル(チェコ)がコントロールし、ライバルチームを完全に封じ込めた。

アラフィリップは何度も攻撃を仕掛けるフルサングから離れることなくフィニッシュ地点のシエナ旧市街まで到達。残り数百メートルの狭い市街路で加速を切り、一気にフルサングを抜き去ってゴールに飛び込んだ。34歳のベテラン・フルサングとの駆け引きを制した26歳アラフィリップの勝負強さが光ったレースとなった。


この日のアラフィリップの相棒はTarmac Disc。ブレーキフォースを考慮せずにシートステーを設計できるため快適性が高く、未舗装路もストレスなく進む。© 2019 Getty Images


観客が詰めかけるカンポ広場に設置されたフィニッシュゲートに真っ先に飛び込むアラフィリップ。© 2019 Getty Images

●ミラノ〜サンレモ(イタリア/UCIワールドツアー/ワンデーレース)
アラフィリップの2019シーズン序盤の目標はイタリアでのビッグレース。すなわち、ストラーデビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、そしてミラノ〜サンレモである。
宣言通りストラーデビアンケを勝ち、ティレーノ〜アドリアティコは総合順位こそ6位で終わったがステージ2勝。しかも第6ステージはサガンらスプリンター達を相手に集団スプリントで勝利。フィニッシュ手前1kmが緩い登りだったとはいえ、この勝利はサプライズだった。


バンチスプリントでまさかの勝利。この日は調子が良く、エーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)からスプリントに参加する権利を貰ったとのこと。それで勝ってしまうのだから凄い。© 2019 Getty Images

5大クラシック初戦にして「ラ・プリマヴェーラ(春)」の別称を持つミラノ〜サンレモ。291qとUCI認定レース中、最長の距離を誇る。
コース終盤に登場するチプレッサ、ポッジオの2つの登りが勝負所で、長距離を走って脚とスタミナを奪われた選手達がこの登りをどう攻略するかにより展開が変わってくる。人数を保ったまま登りを超えればスプリンター達による集団スプリント、登りで飛び出し先行するパンチャー系の選手が現れれば逃げ切りか、少人数のスプリントで勝負が決まる。

ドゥクーニンク・クイックステップはあらゆる展開に対応できる布陣を組んだ。終盤までの牽引を担うティム・デクレルク(ベルギー)、集団スプリントになった場合に備えてエーススプリンターのヴィヴィアーニとリードアウトのマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)、そして攻守自在に動き、自ら勝ちに行くこともできるフィリップ・ジルベール(ベルギー)、スティバル、ランパールト、アラフィリップ。エースナンバーはアラフィリップに託された。

デクレルクが牽き、スティバル、ジルベール、ランパールトがアラフィリップのために集団内で安全な位置を確保し、時に陽動に打って出る。レースが本格的に動き出したポッジオで、それまで静かに息を潜めていたアラフィリップが鋭い加速で先行。これに各チームのエース達が反応し、精鋭が揃う集団が形成された。ポッジオの頂上を越え、下り終わると市街地の平坦路。アラフィリップが先駆けを狙うライバル達のアタックをチェックしたことで、勝負はエース達による小集団スプリントで決することになる。

最終局面でもアラフィリップは冷静だった。ペテル・サガン(スロバキア)、マッテオ・トレンティン(イタリア/ミッチェルトン・スコット)といったスプリント力のある選手をマークしながら、真っ先にスプリントを開始したマテイ・モホリッチ(スロベニア/バーレーン・メリダ)に反応し自分もスプリントに入る。モホリッチをパスし、速度を上げていくアラフィリップ。誰も横に並んでいないことを確認したアラフィリップは、フィニッシュライン直前で大きく手を上げた。


2017年3位で終わったリベンジを果たしたアラフィリップ。僅差で敗れたミハウ・クフィアトコウスキー(ポーランド/チーム・スカイ)とサガンを従えてフィニッシュラインを通過した。© 2019 Getty Images

一撃必殺のアタックと、クレバーなスプリント。おそらく、「こうしたら勝てる」というアラフィリップの筋書き通りにレース最終局面が動いた。いや、アラフィリップがそうなるよう自ら仕掛けた。
ロードレースはシンプルだ。その日一番強い選手が勝つ。この日一番強かったのはアラフィリップで、それを演出したのはチームメイト達だった。そうして、アラフィリップはモニュメント覇者になったのだった。


モニュメントを勝ってもアラフィリップはアラフィリップ。お茶目なことをせずにはいられない。© 2019 Getty Images

■ニックネームの変遷と素顔
ユニークなニックネームを持つロードレース選手は数多く存在するが、アラフィリップもその一人だ。フランス陸軍チームで走っていた際のニックネームはなんと「脱走兵」。元気よく逃げてばかりいたことが由来らしい。確かにキャリア初期のアラフィリップは果敢にアタックするものの、持続せず自滅してしまうことが多かった。

その後オメガファーマ・クイックステップ(当時)の育成チームへ移り、エリートチームへ上がってから、現在までずっと同じチームで走り続けている。ドゥクーニンク・クイックステップの生え抜き選手だからなのか、チームが「ウルフパック(狼の群れ)」を名乗り出してからは「ルル(フランス語で狼ちゃんの意)」と呼ばれるようになり、チームのマスコット的な扱いが定着した。

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移動中、音楽に合わせてノリノリで踊るアラフィリップ。チームのSNSでは愉快なアラフィリップシリーズが定期的にアップされている。

実際、アラフィリップはチームの輪の中心にいることが多い。バイクの上でも降りた後でも、とにかく元気で陽気。おとなしくしている時がないのではというくらい、踊ったり、歌を歌ったり、変顔をしたりと忙しい。

「悪魔に会った!」と言うアラフィリップ。ツール・ド・フランス名物、悪魔おじさんの槍を借りてご機嫌だ。

ミラノ〜サンレモ表彰式で2位オリバー・ナーゼン(ベルギー/アージェードゥゼール・ラモンディアル)と3位クフィアトコウスキーから祝福のスプマンテシャワーを浴びるアラフィリップ。チームを超えて愛されている選手だ。

感情表現が豊かで、情に厚く、勝っても負けても泣く。ミラノ〜サンレモでは優勝インタビューの後、涙を流しながら喜びを噛みしめる姿が中継で放送された。

嬉し涙のアラフィリップ。優勝インタビューではチームメイトの献身を称え、感謝の言葉を述べていた。

レースで勝った後は真っ先にスタッフとチームメイトのところへ行き、喜びを分かち合う。このチームは全員がそうだが、チームメイトの勝利を自分の勝利と捉えて、アシスト役に回る時にも手を抜かず、勝った時には自分の勝利のように喜ぶ。全身で感情を表現するアラフィリップは特にわかりやすい。


ミラノ〜サンレモ勝利後の一幕。チームを心から愛し、またチームからも愛されている選手であることが感じられる。©cyclingimages

ツール・ド・フランス2018第10ステージで初のステージ勝利を飾ったアラフィリップがその時の心境を語る動画。フィニッシュするまでのお調子者ぶりはどこへやら、ゴール後は男泣き。まるで子供のように表情がくるくると変わる。

ちなみに、家族からは「ジュジュ」と呼ばれている。ツール・ド・フランス2018ドキュメンタリーではツール初勝利を家族に嬉しそうに報告していた。度々SNSに弟との写真をアップするなど、家族とは非常に仲が良いようだ。

ツール・ド・フランス2018でのステージ勝利後、母親に電話するアラフィリップ。動画の最後では父親から電話がかかってくる。普段から両親と密に連絡を取り合っている様子が伺える。

父親がオーケストラの指揮者を長年務めていた影響か、アラフィリップは公立音楽院でドラムを学んでいた。自転車を始めたのは13歳の時。「音楽は自転車と同じように、僕に活力を与えてくれる」と言い、今も時々チームメイトにその腕前を披露している。

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ドラムを叩くアラフィリップ。自転車選手ではなくミュージシャン、と言われてもわからない。

■未だ発展途上、道の途中
最後に、アラフィリップの今後について少し思いを馳せてみたい。
彼は一体、何者なのか。
シクロクロス出身で悪路に強く(未舗装路が多数登場するストラーデビアンケで勝利)、
登りにも強く、クライマーとも渡り合うことができ(ツール・ド・フランス山岳賞)、
激坂を登り、鋭いアタックでライバルを突き放すパンチャーでもあり(フレーシュ・ワロンヌ、ミラノ〜サンレモ勝利)、
集団スプリントで勝利するスプリンターでもある(ティレーノ〜アドリアティコスプリントステージ勝利)。
現時点での勝利数7は個人最多、UCIワールドランキングのトップに躍り出た。(※2019年3月26日現在)

こんな選手が他にいるだろうか。クラシックを主戦場にしているが、今や出場するステージレースのほとんどで総合優勝候補だ。タイムトライアルだって遅くはない。本気になればどんなレースも勝つことができるのではないかと思ってしまう。

2019年はバスク一周レースを経て、アルデンヌ・クラシックとツール・ド・フランスを走る。アルデンヌとツールが好きだ、という彼のことだ、きっと勝利を量産するだろう。もしかしたら、もう一度あの赤い水玉ジャージを着るつもりなのかもしれない。

その後の予定は正式には発表されていないが、気になるのはイギリス・ヨークシャーで開催される世界選手権。どうしても虹色のアラフィリップを期待したくなる。
そして気が早いが、東京五輪ロードレース。もし勝ちに来るとしたら、間違いなく優勝候補の一人だろう。

そんなアラフィリップの成長を支えてきたのがスペシャライズドバイクだ。2018シーズンはTarmacを相棒としてきた。2019シーズンはツール・ド・フランス2018山岳賞を記念して作られた特別デザインのTarmacが用意されている。


特別デザインのTarmac Disc。深い青のグラデーションが美しい。フランス国内限定販売で 残念ながら日本では未発売。©BettiniPhoto


フレームの細かい文様に注目。「アラフィリップの力強く攻撃的な走りと、イカした唯一無二のキャラ」をオマージュしてデザインされた。©BettiniPhoto

そして、2019シーズンに入ってからはVengeを使用するようになった。ティレーノ〜アドリアティコ第6ステージの集団スプリント、ミラノ〜サンレモもVengeで勝利している。
今シーズンアラフィリップが見せているキレのあるスプリントを支えているのは、Vengeなのだ。

ドゥクーニンク・クイックステップは今シーズンディスクブレーキモデルだけで戦うことを表明しているチームの1つだ。今やサガンに次ぐバイクコントロール巧者と言われるアラフィリップにとって、コーナリングなどの動作が安定しているディスクブレーキモデルはよき相棒になるだろう。スプリントやアタックの際はスルーアクスルが力を逃さず推進力に変えてくれる。Vengeを手にしたアラフィリップは、更に新しい勝ち方を我々に見せてくれるかもしれない。


2019年はVengeを積極的に活用するようになったアラフィリップ。Tarmac Discとの使い分けで勝利を大きく引き寄せることだろう。©cyclingimages

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■今回の記事で紹介した選手-プロ選手チップス
記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです!
今回特集したアラフィリップはきっとレアカードのはず。

【筆者紹介】:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。満を持して大ブレイク中のアラフィリップ特集です。アヤフィリップとか言ってますが、2016年アラフィリップが謎のアタックと失速を繰り返していた頃についたニックネームのため、彼が強豪選手に成長した今、ただただ恐れ多いばかりです…。シルバーコレクターだった彼がブレイクしていくのは嬉しいですね!まだまだ伸びる選手だと思うので、今後が楽しみです。

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