2019.08.18

二兎を追う者が二兎を得る―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019A

サガンのマイヨヴェールとブッフマンの総合成績を追いかけたボーラ・ハンスグローエ。Band of Brothersをスローガンに戦った21日間を振り返ります。

■アンストッパブル・グリーンジャージモンスター
ツール・ド・フランス最終日、第21ステージ。「スプリンターの世界選手権」と言われるシャンゼリゼでのスプリントを10位で終えたペテル・サガン(スロバキア)は、自身7度目のポイント賞を確定させ、すっかりお馴染みとなったマイヨヴェール(ポイント賞受賞者に与えられる特別ジャージ。フランス語で緑色のジャージの意)を着て表彰台に登った。


史上最多の記録となる7度目のマイヨヴェール受賞。しかし、いつもと全く変わらないサガン。©BettiniPhoto

昨年も同じように緑色のジャージで表彰台に上がったサガンは、最多タイ記録となる6度目のマイヨヴェールを持ち帰った。そして今年も、まるでそうすることが当たり前だと言わんばかりに、涼しい顔で表彰式に現れた。22歳の若きエガン・ベルナル(チーム・イネオス)がマイヨジョーヌとマイヨブランを受け取り、コロンビア自転車界の歴史に新たな1ページを刻んだ同じ日、サガンも大いなる記録を打ち立てた。同一選手による7度のマイヨヴェール獲得は、ツール史上初だ。
 


途中失格となった2017年以外、出場したツール全てでマイヨヴェールを獲得してきたサガン。どこまで記録を伸ばすだろうか。©BettiniPhoto

時計をツール初日に巻き戻そう。グランデパールの地・ブリュッセルのスタートラインに立ったサガンは見慣れないジャージに身を包んでいた。いや、彼が着ているジャージはボーラ・ハンスグローエのチームジャージなのだから、何らおかしいことはない。しかし、サガンがこのチームジャージを着ている姿を、我々はほとんど見たことがない。何故なら昨年までの3年間、サガンはずっと世界王者の証であるアルカンシェルを誇らしげに纏っていたし、今年に入ってからは母国スロバキア国旗をあしらったナショナルチャンピオンジャージを着用していた。


しかし今年、サガンは直前のナショナル選手権で兄ユライにスロバキアチャンピオンジャージを譲り、自身は無冠の選手としてツールに現れた。「僕には何のジャージもいらないのさ。だって、すぐにマイヨヴェールを着るんだからね」ーサガンがそう思っていたかどうかはわからないが、第3ステージで早速サガンはマイヨヴェールを受け取った。(実は第2ステージのチームタイムトライアルから、既に繰り上がりでマイヨヴェールを着用していたのだが!)


一人だけグリーンジャージでチームタイムトライアル。Shiv TT Discのモノトーンのカラーリングに映える。©CyclingImage


第3ステージで正式にマイヨヴェールを受け取ったサガン。この後、一度たりともジャージを譲ることはなかった。©BettiniPhoto

マイヨヴェールは得たものの、ステージ勝利は第5ステージまで待たなければならなかった。ヴォージュ山脈のアップダウンというサガン向きのレイアウトで、マーカス・ブルグハート(ドイツ)らチームメイトがメイン集団を積極的にコントロールし、逃げを封じ込め、スプリントに持ち込んだ。先頭に出たサガンはフィニッシュまで力強く踏み切り、「グリーンジャージモンスター」らしい力強いガッツポーズを披露。4年連続のツール区間勝利を飾った。


流石の勝負強さでステージ優勝を手にしたサガン。この日の勝利はチームメイトの献身あってこそ。©CyclingImage

2019年はステージ1勝に留まったサガンだが、最終的に2位のカレブ・ユアン(オーストラリア/ ロット・スーダル)に68ポイントという大差をつけてマイヨヴェールを獲得している。ユアンは今ツールでステージ3勝しており、フィニッシュ地点のスプリントポイントを大量に獲得している。対してサガンは積極的に逃げに乗るなどして中間スプリントポイントを獲得するとともに、スプリントで勝負が決まるステージは最終日を除き全てシングルリザルトでゴールし、フィニッシュ地点のポイントも積み上げて、ポイントの総和でライバルを上回っている。実にクレバーにスプリントポイントを稼ぎ、マイヨヴェールを盤石のものにしているのである。

中間スプリントポイントを集めるために、時に逃げに乗り、時に果敢にアタックをするサガン。第14ステージではヴィンツェンツォ・ニバリ(イタリア/ バーレーン・メリダ)と共に集団から飛び出す場面も。

そして、サガンをサガンたらしめているのが、そのスーパースターらしい振る舞いだ。今年も話題に事欠かなかった。


ー個人タイムトライアルステージ、フィニッシュ手前の激坂区間をウィリーで登坂。
ーファンから自伝へのサインを頼まれ、なんと走りながらサインをしてあげる。
ー最終日、マイヨジョーヌを獲得したチーム・イネオスの記念撮影に映り込む。

もはや定番となったサガンのウィリー。Shiv TT Discでも早速披露。

スーパースターはファンサービスを欠かさない。例えそれが山岳ステージの途中でも!

チーム・イネオスの記念撮影にしれっと参加。マイヨジョーヌのベルナルよりも目立っている!

■個性爆発!バイクに注目
サガンのバイクには2つの言葉が描かれている。
1つめはステムにペイントされた「Why so serious?」。「なんでしかめ面してるんだ?」という言葉は、映画バットマンに登場するジョーカーの台詞だ。(オリジナルTシャツにジョーカーを模した自身の写真を使うなど、サガンのお気に入りのようだ)
もう1つはボトムブラケットの下に書かれた「WE’LL SEE」。「今にわかるさ」という言葉を、普段は見えない自転車の下側にあえて入れている。
真面目に、むきになるなんてつまらない。それよりも、結果を見ろ。そんなサガンのスタイルを表しているようだ。

 


サガンのこだわりは自転車にも。出典:
https://road.cc/content/tech-news/263983-tour-de-france-2019-eight-most-unique-pro-stems-peloton

余談だが、サガンの相棒であるダニエル・オス(イタリア)もサガンに負けずユニークな選手だ。このツールではサガンを献身的にアシストするとともに、意外な特技を披露した。

相棒サガンの物真似を披露するオス。正直、かなり似ている!

 

サガン本人の前で物真似を披露したところ、物を投げつけられる事態に。


オスのステムにはこんなステッカーが。サガンがスーパースターなら、オスはロックスターだ。出典:
https://road.cc/content/tech-news/263983-tour-de-france-2019-eight-most-unique-pro-stems-peloton

■頭角を現し始めた「ドイツの至宝」
サガンのマイヨヴェールと並ぶボーラ・ハンスグローエの今ツールの目標が、ブッフマンの総合成績である。前哨戦クリテリウム・ドゥ・ドーフィネを3位で終えたジャーマンオールラウンダーは、自身最高位となる総合4位でツールを終えた。惜しくも表彰台は逃したが、総合勢が直接対決を繰り広げる精鋭集団に残り、時に自ら攻撃を仕掛けるなど、強さを見せた。


今回のツールでグランツールライダーとして大きく躍進したブッフマン。彼の走りを支えたのはTarmac Disc。

第8ステージ以降常に総合10位圏内に留まり続けたブッフマン。ライバル達が崩れ遅れる姿を見せる中、彼は終始安定しており、バッドデーらしいバッドデーもなかったように思える。グランツール総合4位は自身初の快挙。まだ26歳と若く、今後の活躍に期待だ。


第13ステージ個人タイムトライアルも15位とうまくまとめた。バイクはもちろんShiv TT Disc。©BettiniPhoto

アシストとしてブッフマンを支えたパトリック・コンラッド(オーストリア)、そしてグレゴール・ミュールベルガー(オーストリア)にも触れておきたい。勝負所では2人のうちどちらかがブッフマンの側で彼を助け、最終局面まで送り届けていた。特にミュールベルガーは第12ステージでは逃げに乗り、ステージ勝利を賭けたスプリントに絡み3位に入るなど好走。頼もしいアシストであるばかりでなく、ステージレーサーとしての頭角を現しつつある。


一流のクライマーに食らいつく登坂力を持つミュールベルガー。前哨戦ドーフィネでもステージ2位に入るなど、勝負強さが光った。©CyclingImage

ドイツチームのドイツ人選手としてブッフマンとともに期待を集めるマクシミリアン・シャフマンにとっては、少し残念なツールとなった。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位入賞など今季好調で初のツールに臨んだが、第13ステージ個人タイムトライアルで落車、左手の中指を骨折し翌第14ステージをスタートせずレースを去っている。ワンデーからステージレースまで上位を狙える実力を持つ選手であり、早期回復とレース復帰が待たれる。


2018年ジロ・デ・イタリアではステージ勝利を飾っているシャフマン。ステージ勝利に加えて総合上位も狙えるオールマイティな選手だ。©CyclingImage

■Band of Brothersを支えたスペシャライズドバイク
「絆で結ばれた兄弟」という意味のBand of Brothersというスローガンを掲げてツールを戦い、スプリントと総合の両方で結果を残したボーラ・ハンスグローエ。平坦ステージではVenge、丘陵・山岳ステージではTarmac Disc、そしてタイムトライアルステージではShiv TT Discとステージ特性に応じてバイクを使い分け、大会を通じて高いパフォーマンスを発揮した。

 


特にスプリントステージと後半の難関山岳ステージで存在感が光ったボーラ・ハンスグローエの選手達。©BettiniPhoto

特にVengeはサガンのよき相棒として、彼の走りを支えた。スプリントを得意とするパンチャーのサガンにとっては、Vengeの加速と登坂力が大きなアドバンテージになる。
最終日には、マイヨヴェールカラーに彩られたスペシャルなVengeがサガンに贈られた。

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サガンのために用意されたスペシャルなVenge。片面はマイヨヴェールカラー、もう片面はツール・ド・フランスの風景が描かれている。
サガンは山岳ステージでもVengeを愛用。©CyclingImage

Tarmac Discは難関山岳ステージで登坂力を見せつけたブッフマンを支えた。登りにおいては、軽さと剛性は正義だ。

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山岳から丘陵まで、幅広い地形に対応しオールラウンドな走りを支えるTarmac Disc。©BettiniPhoto

タイムトライアルステージでは発表されたばかりのShiv TT Discが投入された。ホイールに書かれた「RIDING FOR FOCUS」はスペシャライズド・ファンデーションが掲げるスローガンだ。スペシャライズド・ファンデーションでは、ADHDのような子供たちにバイクを通じて病気の改善につながるような活動と支援を行っている。

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カラフルなホイールが目を引く。選手達も走りを通じて「RIDING FOR FOCUS」の活動と支援に参加している。もっと詳しく> ©CyclingImage

才能溢れる選手が揃うボーラ・ハンスグローエ。あらゆるレースで勝てる実力を持つチームを、スペシャライズドバイクがこれからも後押しする。

スーパースター・サガンを中心に抜群のチームワークを見せるボーラ・ハンスグローエ。来年は8度目のマイヨヴェールに挑戦するのだろうか?

 

 

【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。前哨戦ドーフィネから好調だったブッフマンの躍進と、それを支えたミュールベルガーとコンラッドの献身にボーラ・ハンスグローエの総合系チームとしての強さを感じたツールでした。シャフマンのリタイアは残念でしたが、出場した選手全員がそれぞれ見せ場を作っていて、ジロに続き大成功のツールと言えるのではないでしょうか。そして、チーム・サガンの強さと安定感には脱帽です!

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