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夏の果てへの旅 ブエルタ・ア・エスパーニャ2022プレビュー

2022/08/18

夏の果てへの旅 ブエルタ・ア・エスパーニャ2022プレビュー

グランツール最終戦「ブエルタ・ア・エスパーニャ」には注目のスペシャライズドライダーが多数参戦!見逃せない晩夏の戦いをチェックしていきましょう。

TOP画像:© 2021 Getty Images

ブエルタ・ア・エスパーニャ2022概要

最良のものは、いちばん最後にやって来る。グランツール最終戦、ブエルタ・ア・エスパーニャはとびきりホットだ。コースはスーパーハードで、結末は予測不可能。シーズンで最も激しい戦いが繰り広げられると言っても過言ではない。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2022コース。
オランダからスペインへ飛び、最後はマドリードへフィニッシュする全21ステージ。

総走行距離3280.5km。平坦ステージ6、登りフィニッシュの平坦ステージ(を果たして平坦と呼んでいいのか疑問ではあるが)2、丘陵ステージ4、山岳ステージ7、チームタイムトライアルと個人タイムトライアルが各1の全21ステージが、休息(移動)日3日間を挟んで8月19日(金)から9月11日(日)までの24日間で開催される。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2022ステージ詳細

始まりの地はオランダ・ユトレヒト。スペイン国外からの出発は4回目で、オランダでのスタートは2009年のアッセン以来2度目となる。2010年ジロ・デ・イタリア2日目のフィニッシュ地を、2015年ツール・ド・フランスのグランデパール(開幕地)を務めたオランダ第4の都市が遂にブエルタを迎え入れ、3つのグランツール全てにとって重要な街になるという事実は大変興味深いが、特筆すべきは初日のコースである。23kmのチームタイムトライアルは、21日間を最速で走った総合優勝者に与えられる深紅のジャージ「マイヨ・ロホ」を目指す選手たちに重要なタイム差をもたらすだろう。

最近はあまり見られなくなったチームタイムトライアルだが、2019年ブエルタ第1ステージで採用された際にはコーナーで集団落車するチームが複数発生、波乱の幕開けを演出した。その時の距離は13.4km。今年は10kmも長い。距離が長くなれば、当然リスクも大きくなる。


久しぶりにグランツールに登場するチームタイムトライアル。個の速さだけではなくメンバー同士の連携が試される。© 2021 Getty Image

「低い土地(The Netherlands)」という名を持つ低地の国オランダで過ごす3日間こそ平坦だが、スペインへ移動する4日目からはブエルタらしい山がちなコースが多く登場する。バスク地方の起伏に富んだ山道を走ってからカンタブリア山脈へ。初登場の1級ピコ・ハノで今大会初の山頂フィニッシュを迎える第6ステージの後、第8ステージ、第9ステージと畳みかけるように山頂フィニッシュが続く。特に第9ステージのフィニッシュである1級レス・プラエレスは距離こそ4kmと決して長くはないが、平均勾配12.5%、最大勾配は17%という正真正銘の激坂。2018年に登場した際には総合争いの舞台となった。第1週を激しく締めくくってくれるはずだ。

最後の1級レス・プラエレスの前に4つの登りが登場する第9ステージ。総合バトル勃発は待ったなし。

休息日に長い移動をこなし、第2週は冬場のトレーニングキャンプ地としておなじみのアリカンテを駆ける31kmの個人タイムトライアルでスタート。太陽が降り注ぐ地中海沿岸の気温は、比較的過ごしやすいスペイン北部からやって来た選手たちには堪えるだろう。オランダ以来のスプリントステージとなる第11ステージを経て、第12ステージは1級山岳アルト・デ・ペニャスブランカスへ。2013年ブエルタ第8ステージに登場したこの山は、当時ボーラ・ハンスグローエの前身であるネットアップ・エンドゥーラに所属していたレオポルド・ケーニッヒ(チェコ)が鮮烈な勝利を飾った思い出の場所でもある。なお、今年の登りは当時よりも長く、更に厳しい。
第2週のフィナーレも第1週と同じ山頂フィニッシュ2連戦。舞台はアンダルシア州シエラ・ネバダ山脈。第15ステージは獲得標高4,000mに達する過酷な一日で、今大会の流れを決める大一番になること間違いなし。主催者は更なる高地を希望していたそうだが、フィニッシュの標高は2,500m。審判の地には十分過ぎるだろう。

おそらく今年の最難関ステージになるだろう第15ステージ。約30qのシエラ・ネバダの登りは圧巻。

第3週も油断は禁物。今年はアングリルやコバドンガといった象徴的な山岳は登場せず、一見すると難易度は高くなさそうだが、疲労が蓄積されるグランツール終盤は罠の連続だ。ここまで体力を温存してきた選手たちは大逃げを画策するだろう。第16ステージ、第17ステージはそんな「逃げ屋」たちの獲物になるかもしれない。総合成績を争う選手たちは1級アルト・デル・ピオルナルにフィニッシュする第18ステージよりも、138kmと短距離で2級山岳を含む周回コースを2度走る第19ステージを警戒すべきか。
そして第20ステージに登場するプエルト・デ・ナバセラダは2015年ブエルタの第20ステージに登場、アスタナが猛攻を仕掛けてファビオ・アル(イタリア)による最終日前日の総合逆転劇を演じた因縁の登りである。最終日にマドリードのシベーレス広場にフィニッシュするまで、一瞬たりとも気を抜くことはできないのだ。


リーダージャージ「マイヨ・ロホ」に合わせた深紅のTarmacで最終日を走る2015年ブエルタ覇者のファビオ・アル。©BrakeThrough Media

注目スペシャライズドライダー

シーズン最後のグランツールであるブエルタ・ア・エスパーニャ。スタートリストには過去の総合優勝選手やグランツール表彰台経験者がずらりと並ぶ。しかし今年の注目は何と言ってもレムコ・エヴェネプール(ベルギー/ クイックステップ・アルファヴィニル)だろう。

ジュニア時代の2018年にはロードレース・個人タイムトライアルのダブル世界王者に輝き、U23カテゴリを飛ばして2019年に18歳でプロデビュー、短いキャリアの中で鮮烈な勝利を重ねてきた麒麟児である。しかし2020年イル・ロンバルディアでダウンヒル中に落車、骨盤を骨折する重傷を負い、手術とリハビリのために競技から長期離脱。復帰戦となった2021年のジロ・デ・イタリアでグランツールデビューを飾ったものの、未舗装路と登りへの適性を示すことができず、最後は落車でレースを去った。素晴らしい選手ではあるが、グランツールを争う選手としての資質には疑問符が付いたまま。そんな周囲の疑念を振り払う絶好の機会が、今年のブエルタなのだ。


表情に幼さが残るエヴェネプールだが、その実力は本物。
今季は既にShiv TTで3勝、Tarmac SL7で6勝と計9勝し、名実ともにエースとしてチームを牽引。© 2022 Getty Images

昨年のジロを走ったエヴェネプールと現在のエヴェネプールは全く別の選手だ、とチームのゼネラルマネジャーを務めるルフェーブル氏は自信をのぞかせる。実際、今年のエヴェネプールはクライマーズクラシックの最高峰であるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで勝利、更にクラシカ・サンセバスティアンでは登りでライバルを全員引き千切って独走というこれ以上ない強い勝ち方を見せた。今季のターゲットをブエルタに定めて、地道に登坂力を磨いてきた成果だ。では狙うのは総合優勝か?と盛り上がるのは少し早い。目下の目標はキャリア初のグランツール区間勝利。まずは得意のタイムトライアルでの勝利が欲しい。そこでタイムを稼ぐことができれば、総合争いに加わることも夢ではない。


主催者の意向でエースナンバーを付けた昨年のジロとは違う。このブエルタはチームが認めた総合エースとして万全のコンディションで臨む。満を持して迎えるスペインでの21日間は、新しい自分を見つけるための旅になるだろう。


クラシカ・サンセバスティアンで披露した「新生エヴェネプール」がブエルタに挑む。© 2022 Getty Images

ブエルタの目玉はエヴェネプールだけではない。22歳の若きエースを支えるのは、2ヶ月前に30歳になった現世界王者だ。ジュリアン・アラフィリップ(フランス)がブエルタを走るのは5年ぶり2回目。2017年第8ステージでは記念すべき初のグランツール区間勝利を飾っている。エヴェネプールが勝ったリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで落車、いまだ回復の途上にあるアラフィリップの目標はブエルタ閉幕の1週間後にオーストラリア・ウロンゴンで行われる世界選手権。エヴェネプールをアシストしながら、世界選手権3連覇に向けて脚を仕上げていく。


世界チャンピオンの証である白地に5色ストライプの「アルカンシェル(虹)」ジャージを着るアラフィリップ。
華やかで攻撃的な走りが持ち味。© Getty Images

リーダージャージを着用し続けたことはある。しかしこのチームがここまで総合順位を意識してグランツールに臨むのはおそらく初だ。今季チームに合流したイラン・ファンウィルデルルイス・フェルヴァーケのベルジャンクライマーコンビはいわば「チーム・レムコ」で、加えてファウスト・マスナダ(イタリア)ら登れる選手たちが脇を固める。エヴェネプールの挑戦は、「ウルフパック(狼の群れ)」を自称するクイックステップ・アルファヴィニルにとっても大きな挑戦である。


前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスを総合5位で終えたファンウィルデルも頼れるアシストの1人。© 2022 Getty Images

ブエルタに参戦するもう1つのスペシャライズドサポートチーム、ボーラ・ハンスグローエ。ドイツチームは今年のジロ・デ・イタリア総合優勝でグランツール総合を戦うチームとして名乗りを上げた。もちろんブエルタでも総合優勝を狙いに行く。だからジロのエースたち、すなわちジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)をブエルタに招集する。


今年のジロ・デ・イタリア覇者ヒンドレー。クレバーな走りで抜群の安定感を誇る。

更にそこにセルヒオ・イギータが加わる。166cmの小柄なコロンビアナショナルチャンピオンは、今季チームに加入してから好成績を連発。ボルタ・ア・カタルーニャ総合優勝、ツール・ド・スイス総合2位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも5位とあらゆるタイプのレースで強さを見せている。起伏が多い今年のブエルタは登りもスプリントもこなすイギータにうってつけで、チームの切り札として活躍してくれるだろう。どちらかというと不得手な個人タイムトライアルが鬼門だが、総合を狙えるエースはイギータを入れて3人もいるのだから、プレッシャーを感じる必要はない。


イギータはコロンビア国旗カラーのジャージとヘルメットを着用する。集団内でも見つけやすい。

一方で重圧を感じているに違いないのがこの人、サム・ベネット(アイルランド)である。古巣に復帰したものの、成績を残せない苦しいシーズンを送っており、今季の勝利は5月のエシュボルン・フランクフルトのみ。切望していたツールのセレクションからは外れたが、何とかブエルタへの切符を掴んだ。同郷のライアン・ミューレン、頼もしい発射台のダニー・ファンポッペル(オランダ)とともに、少ないスプリントのチャンスを勝利に繋げたいところだ。


ファンポッペル(左)とのコンビネーションで何とか勝ち星が欲しいベネット(右)。

ブエルタはシーズン最後のグランツールであり、様々な選手がそれぞれの野望を抱いてやって来る。最初からブエルタを目標に据え綿密な準備を経て出場する選手もいれば、他のビッグレースに出場するチャンスを逃して流れてきた選手も、来季の契約のために一発逆転を狙う選手だっている。だからとびきりホットでエキサイティングなのだ。笑うしかような厳しい登りと乾いた熱い空気は、野望が交錯する群像劇を鮮やかに映し出す最高の舞台装置である。

※出場選手の情報は2022年8月16日時点のものです。

【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライターです。毎年ブエルタの季節になると「ブエルタが一番好きだな」と感じます。夜が深いのだけが難点です。

池田 綾さんの記事はこちらから>

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